第222回(2010.08.03)
戦略類型とプロジェクトマネジメント

◆プロジェクトの2つの側面

プロジェクトには2つの側面がある。ひとつはビジネスであり、ひとつはオペレーションである。プロジェクトマネジャーはこの両方をマネジメントすることを求められる。これがプロジェクトマネジメントの難しさの本質でもあり、品質管理とプロジェクト管理は違う理由でもある。

PMI(R)では、オペレーションのマネジメントをプロジェクト(プログラム)マネジメントとして行い、ビジネスのマネジメントはポートフォリオマネジメントなどの経営システムの中で行うように整理している。したがって、プロジェクト(プログラム)マネジメントはプロジェクトポートフォリオなどの形で表明された経営の意図を正確に実現することが求められる。

P2Mでは、オペレーションとビジネスのマネジメントの両方をプログラムマネジメントとして行う。プログラムの中に経営があるといってもよい。


◆どちらが妥当か

どちらが適切であるかは、経営の仕組み、特に戦略策定の方法、いわゆる戦略類型にかかってくる。

アンゾフ流に、明確な戦略計画を策定し、戦略経営をしていく場合にはPMBOK(R)流の考え方がなじむ。戦略計画により戦略ゴールが計画で与えられ、ポートフォリオやプログラム、プロジェクトを駆使して戦略ゴールの達成に取り組んでいく。

しかし、ミンツバーグ流の創発的な戦略策定を行うことの多い日本企業の場合、P2M流の考え方の方が適しているといえる。いずれにしても、ビジネスとオペレーションが両方がうまくいって初めてプロジェクトの成果が生まれる。


◆戦略類型とプロジェクトマネジメントの不整合

問題は、戦略類型とプロジェクトマネジメントの考え方が合わない場合である。日本企業でよく見られる不一致のパターンは、組織は創発的(学習的)な戦略策定を目指しているが、そこにPMI(R)流のプロジェクトマネジメントを行おうとしているパターンである。こうなっている組織では、管理者が現場が動かないと不満を漏らしていることが多い。現場に権限を与えずに、現場が動かないと言っているのだから、勘違いなのだが。

創発的な活動を行う魅力は、そこから何が飛び出してくるか分からないところにある。その意味において、現場に創造を求めて最小限の権限委譲だけで済ませようというのは本質的な矛盾がある。どのような権限があればそれが可能になるか分からないからだ。プロジェクトXを見ていると、権限が決まっていても、必ずといっていいくらい越権行為が出てくる。それが見ている人に訴求すらする。越権行為を許していたところがよき時代だったということだろう。


◆新しい責任体制の考え方が必要

ただ、内部統制が厳しくなってきた中で、このような責任体制というのは考えにくい。それで失敗でもすれば株主代表訴訟ものである。何らかの範囲で、新しいことを行うために必要な責任と権限を明確に規定する必要がある。

これを実現するマネジメントシステムには2つの考え方がある。一つは経営層がその責任を持ち、現場には経営層の意思決定を実行するために必要な権限だけを与えるという考え方だ。PMI(R)のプロジェクトマネジメントの考え方はこのマネジメントシステムが前提になっている。

この場合、経営層が創る仮説は、非常に早いスピードで仮説思考サイクルを回していく必要がある。四半期の結果を重視する経営はこの意味では合理性がある。

もう一つは、すべての権限を現場に渡してしまうことだ。そして、現場で仮説思考のサイクルを回していく。日本の組織は大半がこれだと思っている人も少なくないと思うが、実は違う。少しややこしいが説明しておく。

日本の組織では、レスポンシビリティ(実行責任)と権限は現場に渡すが、アカウンタビリティ(成果責任)は経営側に残していることが多い。ここで、経営層と経営側と微妙な呼び分けをしているのは、経営側は経営層と現場のマネジャー(ミドルマネジメント)を含めているからだ。つまり、日本の組織構造は、経営層からみれば、ミドルマネジメントにアカウンタビリティを負わせ、現場にレスポンシビリティを負わせることを基本としてきた。

要するに製造業スタイルなのだが、それをそのままにして、イノベーションを行うとしている。ここにカイゼンしかできないとか、イノベーションがうまく行かないといった問題の本質がある。

それはともかく、このようにすると、権限を持つべき人は状況によって変わる。これが日本組織では責任と権限があいまいだと言われる所以である。


◆プロジェクトが成果責任を果たせない理由

ついでにいえば、プロジェクトマネジメントが十分に権限を与えられていないと感じる理由もここにある。プロジェクトマネジメントを導入したばかりのころは、怖くてレスポンシビリティを果たすだけの権限以上は与えられなかった。いうまでもなく、本当の意味でプロジェクトを成功させるには、アカウンタビリティを果たすための権限も必要であるが、その権限を持つミドルマネジャーはプロジェクトのコミットしなかったわけだ。

そのために、プロジェクトとしてのレスポンシビリティは果たせたが、アカウンタビリティが果たせないケースが多発している。納期通りに商品を出したが全く売れなかったとか、納期通りに顧客に納品したが、顧客は二度と頼みたいと思わなかったとかだ。


◆プロジェクトが成果責任を果たすための2つのアプローチ

この問題の解決として、2つのアプローチがある。一つは、アカウンタビリティに必要な権限を持つ階層をプロジェクトロールにしてしまい、プロジェクトマネジメントの仕組みに組み込んでしまうことだ。プロジェクトスポンサー制度などが該当する。
プロジェクトスポンサーは統制を行うというより、むしろ、自身の持つ組織的権限や経験を背景にして、プロジェクトを支援するような役割を果たす。

もう一つは、プロジェクトに経営の意思が反映されるような仕組みを作り、プロジェクトチームは本当にオペレーションを行う位置づけにする。プロジェクトガバナンスである。

こちらの場合もプロジェクトスポンサーを置くことがあるが、それはあくまでもプロジェクト活動がガバナンスを遵守して行われているかどうかを統制することが役割である。

前者が創発的戦略計画に基づく戦略実行の際にとられる方法であり、後者は経営計画に基づく方法の中でとられる方法である。創発を目指してうまく行かないケースは、プロジェクトマネジメントを後者の仕組みにしておきながらも、経営の意思が抽象的であり、具体化は自分たちで考えろと言うある意味で中途半端なマネジメントを行っているケースが圧倒的に多い。

本当はここをかえるべきなのだが、それは当面期待できないし、短時間では難しい。
また、その場合、企業を支えているミドルマネジメントの役割をどのように変えるかという難題もある。

そう考えた場合に、プロジェクトマネジメントのやり方を前者に変える方が現実的だ。


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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