第213回(2010.05.21)
T型あるいは、π型プロジェクトマネジャー

◆T型人材

専門職の道を選ぶと、一度は、T型人材になれとか、あるいはもう一歩進んで、π型人材になれといった指導を受けたことがあるのではないかと思う。

念のために説明していくと、T型人材は、一つの深い専門知識を縦軸にもち、幅広い知識を使いこなす能力を横軸に持つ人材である。πの場合には、Tに加えてもう一つの専門性を持つ。

縦軸はいいと思うが、横軸を改めて考えてみると、意外と複雑であることがわかる。
たとえば、技術者の場合には、「多能工」という概念がある。もともとは、工場で、複数のツールを使うことができる技能者をいっていたが、今ではもう少し、広い意味で使われ、異なる技術が必要な業務に対応できる技術者のような意味である。

多能工の場合、キャリアにもよるが、基本的にはT型である。つまり、Tの横軸の意味は技術である。いろいろな技術を知っており、自分の専門技術との「アナロジー」、あるいは、「メタファ」を使って専門外の技術にも「それなり」の対応ができるのが、多能工である。僕たちが学生だった25年前は「システムエンジニア」はT型人材であれと教えられ、縦軸は何でもよかった。ところが、情報化が進むにつれて、T型人材でも縦軸は「情報技術」に限定されるようになってきた。

しかし、それだけではあまりにも人材としての深みがないので、情報技術以外にもう1本縦軸を持つ人材ということでπ型人材の必要性がいわれるようになってきた。


◆横軸は技術では通用しない

ところが、横軸が技術というのは実態に合わなくてなってきた。理由は2つある。一つは、プロジェクトで仕事をすることが普通になってきたこと。二つ目は、技術だけでは仕事ができなくなってきたことだ。この2つは深い関係がある。

より本質的な理由は最初の方で、要するにプロジェクトで仕事をするようになってきたので、チームとしてみれば、πどころか、異なる分野の専門家を集めたムカデのようなプロジェクトチームを作ることが可能になったわけだ。そこで一人一人が、複数の専門性を持たなくてはならないという方向性は薄れつつある。

その代わりに、自分の専門性をチームの中で活かすことが必要になってきた。これが、新たな横軸として求められるようになってきた。


◆プロジェクトメンバーとリーダーの横軸

メンバーであれば広い意味でのコミュニケーションスキルが横軸としてはもっとも重要であると認識されている。もう少し、業務範囲がましていわゆる「リーダークラス」になると、横軸はプロジェクトマネジメントになる。リーダークラスでは、プロジェクトマネジメント力がないと、自分の能力をプロジェクトや組織に活かしていくことは難しいだろう。

リーダーとしてプロジェクトマネジメントを経験しているうちに、縦軸が専門技術から、プロジェクトマネジメント技術(業務管理技術)に変わってくる。乳歯から永久歯にはえかわるようなものだ。


◆プロジェクトマネジャーの横軸は戦略実行力

では、縦軸にプロジェクトマネジメントを持つプロジェクトマネジャーに必要な横軸は何か?

それは戦略実行(マネジメント)力である。プロジェクトマネジメント力とは、プロジェクトの目標を、計画期間内に、計画予算内で、達成する力である。しかし、これだけでは、成果に結びつくとか限らない。

たとえば、こういうことだ。IT企業で、経営状況が年々悪化している既存顧客から無理を言われて、ほとんど利益のない予算でプロジェクトを行った。そして、予算/納期通りにプロジェクトを終えた。経営的にみれば、このプロジェクトの成果はないに等しい。

取引を継続したい企業でもないし、利益に貢献するわけではない。その意味で、経営的な成果があったとはいえない。しかし、簡単ではない予算で、計画内でプロジェクトを終えたプロジェクトマネジメント力はあっぱれなのだ。

この力を活かすには、プロジェクトの目標を成果に結びつくように調整する必要がある。つまり、今ある、戦略を読み取り、そこに要求される以上の成果を盛り込んでいく。戦略実行に貢献していれば、たとえば、人材育成でもいいし、知財を構築することでもよい。

これが、横棒に必要で、このような力が戦略実行力なのだ。縦棒にプロジェクトマネジメント力、横棒に戦略実行力を持つのが、T型のプロジェクトマネジャー人材である。
T型人材を目指してほしい。


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