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第20回(2002.09.09) 
リーダーシップ考(3) 動機付け
 

◆外発的動機と内発的動機
 動機には外発的動機と内発的動機と呼ばれる2種類がある。外発的動機は、例えば、「たくさんの報酬をもらえる」とか、「非難されたくない」とかいった外部からの働きかけによる動機である。これに対して内発的動機は「面白い」「やりたい」といった自分自身の思いに根付くものである。例えば、著者がこのメールマガジンを無料で自分の考えを知ってもらうために出しているのは内発的動機による行動である。しかし、同じ執筆でも、出版社に渡して原稿料を貰うために書いていれば外発的動機に基づくものということになる。

◆外発的動機と内発的動機の違い
 人間の行動は本来、内発的動機に基づくものであり、それを外発的動機により補完されるというのが自然な姿である。そのため、内発的動機は永続性があるし、また、内発的動機に基づく行動は充実感を得ることもできる。例えば、著者はこのメールマガジンが読者に何らかの形で役立っているということで充実感を感じているわけだ。外発的動機は一時的なものである。うるさい上司が来たのでとりあえず一生懸命やっても、その上司がいなくなれば元に戻る(ちなみに、このときの上司をモチベーションリソース:動機の源泉という)。マネジメントはここを間違えるとうまくいかない。
 凄く乱暴な議論をすると、前回、マネジメントとリーダーシップという話をしたが、マネジメントでは外発的動機付けにより人を動かしていく。これに対して、リーダーシップでは、内発的動機付けに人を動かす。その違いが本質的な違いであるといってもよいだろう。

◆プロジェクトと動機付け
 では、プロジェクトではどうだろうか?そもそも、プロジェクトという手法は目標として、品質、コスト、工期を明確にすることにより、外発的動機を高めるための手法であるといえる。経営管理というのはそもそも外的動機を与えることにより従業員をうまく動かし、経営目標を達成するわけであるが、プロジェクトマネジメントでは、要因を品質、コスト、工期に絞り、可視化することにより、一層インパクトのある外発的動機を与えるという手法をとる。
 ここで考えなくてはならないことは、プロジェクトというのはそもそも有期的なものである。上のラインの上司の例とは違って、極論すれば、そのプロジェクトで一生懸命やって成果を出してくれれば、次のプロジェクトではサボって貰っても構わないという考え方も成り立たないわけではない。実際に一つのプロジェクトに死に物狂いで取り組み、終わったわ燃え尽きるというのはよくある。これは外発的動機付けにより行動している場合にはよく見られる現象である。また、このときのコミットメントの仕方というのは、必ずしも内発的動機で行動している場合に較べて低いとも限らない。むしろ、高くなる場合もあるだろう。この辺りが、難しいところである。

◆内発的動機付けの必要なプロジェクト
 さて、プロジェクトXに出てくるようなプロジェクトを見ていると、メンバーの内発的動機に訴えているところがある。これはどういうことだろう?これらのプロジェクトとしての共通点はビジョンが明確なことである。これはプロジェクトの創造性と大きな関係があるように思える。簡単にいえば、創造的なプロジェクトを実行するためには、それぞれのメンバーが自分の意思でプロジェクトに取り組み、創造性を発揮しなくてはならない。創造性の発揮は外発的動機付けだけは難しい。やれと命令して創造的な成果を出せるものではない。「好きこそものの上手なり」という言葉があるが、プロジェクトマネージャーはうまく内発的な動機付けを行っていく必要がある。その第一歩はプロジェクトのビジョンを明確に示すことである。そして、メンバーにそのビジョンに共感を覚えて貰うことであろう。もちろん、それでメンバーが自主的に取り組んでくれるかというと難しい面もあり、もう少し、いろいろな側面から内発的動機付けをいうことを考える必要がある。この議論は後回しにする。

◆統合マネジメントと動機付け
 このような流れがプロジェクトマネジメントの流れであることは、PMBOKのような統合マネジメントという考え方がでてきたことからも分かる。プロジェクトマネジメントも統合マネジメントが主流になってきたが、統合マネジメントでは外発的動機付けより、内発的動機付けの方が重要だと考えられる。統合マネジメントが出てきた背景には、マネジメントプロセスの重視がある。これはPMBOKだけではなく、ISO10006が9000から派生的に出てきたことを考えても分かる。つまり、プロジェクトにおいても、その不確実性が大変大きい中で、その成果物の品質をコントロールするにはマネジメントプロセスをコントロールするしかないという考え方が背景にある。統合プロジェクトマネジメントは、統合によりステークフォルダの問題を含めた調整をしようとすることが第一義であるが、プロジェクトのマネジメント要因を分類し、それぞれに対してマネジメントプロセスをコントロールすることとによる全体最適という面も重要である。

◆ビジョン駆動型プロジェクトには内発的動機付けが必要
 そのように考えると、統合マネジメントは統制ではない。逆に、プロジェクトに参加するメンバーに対して自由度を与えようとするマネジメントの手法であると見ることができる。そのことは、PMBOKの1996年版がエンジニアリングのような目標駆動型だけはなく、製品開発のようなビジョン駆動型のプロジェクトも視野に入れていることを考えれば不思議なことではない(プロジェクトのタイプについてはNo.17参照)。
 統合マネジメントは目標駆動型プロジェクトより、むしろ、ビジョン駆動型のプロジェクトのマネジメントにおいてより効果を発揮する方法であり、そのようなプロジェクトにおける動機付けでは、内発的動機付けが必要であるといえる。

 今回はここまでにする。次回は、プロジェクトにおいて内発的動機付けをするにはどうすればよいかを考えて行きたい。

◆おまけ:読書案内
 次週(9/16)、次々週(9/23)は休日と祭日のため、戦略ノートはお休みします。それで、寂しいという人のための、このあたりの話題の読書案内です。

 リーダーシップ論はあまり今のところ、プロジェクトマネジメントの議論としては興味を持つ人が少ないようです。一つには、日本では手法さえ普及しておらず、そんな段階ではないという現実があるように思います。ただ、ビジョン駆動型のプロジェクトでは手法より、リーダーシップの方が重要なのではないかとさえ思います。
 このように書くと、たぶん、商品企画のプロジェクトの話だとかいう風に思われる方(特にエンジニアの方)が多いのではないかと思いますが、決してそんなことはありません。例えば、システム開発で、XP(エクストリーム・プログラミング)という手法が昨年あたりから注目されていますし、米国ではXPだけではなく、Agile Software Developmentという考え方が90年代後半から開発方法論の一つのメインストリームになっています。これらの手法では、オブジェクト指向という技術的背景はあるにせよ、マネジメントとしてみれば明らかにリーダーシップを中心にしたチームマネジメントによる管理手法です。むしろ、ソフトウエアエンジニアは、常に、どうすればマネジメントなしで、
開発方法論+リーダーシップでよい製品を顧客に出すかと考えてきたのかもしれません。
 ということで、リーダーシップ論というのはエンジニアにとってもとても重要な分野になってきていると思います。この分野では神戸大学経営学部の金井壽宏先生の考え方がお奨めです(僕にとっては恩師なのでその分は差し引いてください)。金井壽宏先生の本は難しいものが多いのと、イノベータなので体系的にはまとまっていない本がおおいのですが、比較的読みやすくてお奨めなのは

はげましの経営学」、宝島社新書

 
です。あと、もう1冊
組織を動かす最強のマネジメント心理学―組織と働く個人の「心的エナジー」を生かす法」、中経出版


もお奨めです。
 アジャイル開発では、コーバーンの Agile Software Developmentの翻訳がやっと出版されました。訳もまあまあです。この本、4章以降は開発方法論の話ですが、3章まではチームマネジメントの本としてすべての分野のPMの方に参考になると思います。

アジャイルソフトウェア開発」、ピアソン・エデュケーション

この本の前書きに書いてあったのですが、アジャイル開発のマネジメントの名著
Lars Mathiassen「Improving Software Organizations: From Principles to Practice

(邦題:アジャイルソフトウエアチーム)



Alistair Cockburn「Surviving Object-Oriented Projects」、

も翻訳が出るそうです(邦題:アジャイルプロジェクト管理)。

ついでに、著者が常日頃お世話になっている技術評論社からSoftware Peopleというムックが刊行されて、その第1号の特集がアジャイルなソフトウエア開発です。

Software people―ソフトウェア開発を成功に導くための情報誌 (Vol.1)


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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読者からのコメント
レポートの参考になりました。ありがとうございました。
自分的にはとても分かりやすかったです
宗さん(19歳・学生)