第191回(2008.08.12)
プロアクティブは自立から生まれる

◆自立できないプロジェクトマネジャーが増えている

前回まで、プロアクティブとリアクティブの話をしてきたが、この話の本質はどこにあるのだろうか?

いくつかの見方があると思われるが、その中で最も重要なものをひとつ挙げるとすれば、プロジェクトマネジャーの自立ではないかと思われる。自立とは

 自分の意志を以てプロジェクトマネジメントを行うこと

である。この5年で組織ごとにプロジェクトマネジメントの標準的な方法を定めてきた。これ自体は必要なことなのだが、その一方で、やらされ感がどんどん増しているのも事実だ。つまり、自立できないプロジェクトマネジャーが増えている。

それを象徴するのが、「プロジェクトマネジャーは責任だけあって権限が与えられていない」というプロジェクトマネジャーからの悲鳴だろう。

この問題にはプロジェクトマネジャーの立場から、あるいは組織の立場からいろいろな意見があると思う。しかし、一言でいえば、リアクティブなプロジェクトマネジメントをしていると多くの組織で与えられている平均的な権限は十分ではない。しかし、プロアクティブなプロジェクトマネジメントを前提にするなら、十分な権限が与えられているということではないかと思う。


◆権限はそう簡単に渡せない。。。

リアクティブなプロジェクトマネジメントでは、権限の与えられた範囲で、決められたルールを守りながらプロジェクトを運営する。その場合、おそらく、プロジェクトマネジャーがやりたいと思うことをできるだけの権限は与えられない。たとえば、人事権をプロジェクトマネジャーに与えられる組織は珍しいだろう。プロジェクトマネジャーに人事権を認めれば他のプロジェクトとの競合が発生したときに収集がつかなくなる。プロジェクトの損益をプロジェクトマネジャーに決めさせれば事業としての雲行きが怪しくなるだろう。

したがって、人が必要なときに獲得できないとか、あるいは評価による動機づけをできないだとかいった不満が出てくる。あるいは、最初からできないとわかっているプロジェクトをやらされているといった不満も出てくるわけだ。

本来であれば、このようなプロジェクトマネジメントをするのであれば、権限やルールの範囲でうまくできないことがあり、プロジェクトがうまく行かなければ組織の責任である。にもかかわらず、その責任をプロジェクトに押し付けている点に、上にのべたような権限と責任のアンバランスがあるという意見が出てくる理由がある。


◆くれない症候群からの脱皮

ただ、プロジェクトマネジャーが考えて欲しいことは、これは「くれない症候群」ではないかということだ。リアクティブなスタンスでいると、結局、権限は制約条件になってしまう。しかし、権限というのは本質的にはそのようなものではない。ひとつひとつのプロジェクトで勝ち取る(委譲を受ける)ものであるし、また、委譲してもらえないなら権限を持たないとできないことを「承認」させることが必要になる。ルール上、権限がないから無理だということにはならない。

たとえば人事権がないので、人が確保できないというのは「くれない症候群」にすぎない。人を「与えてくれない」、「人事権を与えてくれない」と文句を言っているだけだという意味だ。プロジェクトマネジャーであればそうではなく、権限がなくても人を確保するように最大限の努力をすべきであるし、なんとかして実現することが責務である。


◆影響力の法則が権限の問題を解消する

本メルマガでインフルーエンステクノロジーの高嶋成豪さんに「影響力の法則」というコラムを書いてもらっている。

影響力の法則

これは、「影響力の法則 現代組織を生き抜くバイブル」に基づくステークホルダマネジメントの方法を述べたものだが、その著者である著者、アラン・コーエンとデビッド・ブラッドフォード両博士によれば"レシプロシティ"が重要であるという。レシプロシティとは、「他者に対して何かをしてあげたら、見返りがあるはずだと期待する社会通念」のことだ。


◆本質的にはレシプロシティ社会である→頼むには見返りが要る

日本人は表向きはこのような考え方ははしたないというふりをしているが、裏では教育の場ですらも、とんでもないレシプロシティがあるくらい、レシプロシティ依存社会である。このような風土である理由は興味深いが、ここでは議論しない。言いたいことは、レシプロシティの非常に強い中で、権限の話に関していえば、リアクティブなプロジェクトマネジャーは要求だけしているのではいかということだ。

要員をもらう代わりに、金銭を渡せと言っているわけではない。普通の企業の中で、そのようなことが価値の交換になろうはずははい。たとえば、AくんとBくんを自分のプロジェクトに配置してくれないとプロジェクトのデッドラインは保証できませんといった交渉を展開するプロジェクトマネジャーは結構多い。しかし、上司にしてみれば初期の段階で要員は出しているのだからこれは価値交換になりえない。

たとえば、AくんとBくんを自分のプロジェクトに配置してくれたら、今のスケジュール遅れを取り戻すだけではなく、当初計画に対して3%、目標の上方修正をするといってみたらどうだろうか?ひょっとするとそれで上司は乗ってくるかもしれない。
乗ってこないまでも、本気であることは感じてくれ、何か本気の逆提案をしてくれるかもしれない。


◆プロアクティブとは結局のところ、権限の壁を乗り越えること

つまり、「くれない」と文句を言うのではなく、レスプロシティの考え方に基づき、価値の交換をすることによって、自らの思いを達成する。このように権限の壁を乗り越えて、プロジェクトマネジャー自身がやりたいと思うことをやる。これがプロアクティブなプロジェクトマネジメントだと言えるだろう。

ちなみに、アラン・コーエンとデビッド・ブラッドフォード両博士は影響力の法則を

Influnence without Autohrity(権限なき影響)

と呼んでいることを覚えておいてほしい。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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