第30回(2006.11.07) 
プロジェクトマネジメント計画(後)
 

◆いつ計画書を作るのか

前回はプロジェクトマネジメント計画には3つの柱

(1)プロジェクトマネジメントの計画
(2)計画データ
(3)開発管理計画

があり、それぞれ、どういうものかについて説明をした。ここで、多くのプロジェクトマネジャーの頭を悩ませる問題がある。それは、これらの計画書はいつ作るのかという問題だ。

プロジェクトでは制約条件としてデッドラインが決まっていることが多い。このような場合には、一刻でも早く作業にかかりたい。しかし、まだ決まっていないこと、決めれないこと、やってみないとわからないことなどがあり、それを何とかしなくては計画が作成できない。

例えば、商品を開発するときに機能仕様は決まっているが、各機能の構成部品は基本設計をしてみないと決まらない場合は少なくない。すると、最初から部品の詳細設計作業をプロジェクトの開始時点で計画することは難しい。

このような場合に、いつ、どのように計画を作っていけばよいのだろうか?


◆段階的詳細化

このような場合、2ステップの段取りを考える。当面作業をしなくてはならない範囲(例えば、最初のマイルストーン)までは細かく計画を作る。WBSを使ってスコープ計画をするのであれば、ワークパッケージまでブレークダウンして、アクティビティを決めて、スケジュールを決め、作業計画(計画データ)を作る。

当該範囲については、その時点でまだ決まっていないことは、調整するなり、交渉するなりして、判断(決断)するなりして、決めていく必要がある。そして、その計画に基づいて、当該範囲の作業を進めていく。

作業を進めていくうちに決めれることもあるし、分かってくることもある。例えば、上の例でいえば、基本設計がある程度進んでくれば、詳細設計が見えてくるので、WBSをワークパッケージのレベルまで落としこむことができる。また、時間が経過するので決定できることもある。すると、その先の詳細な作業計画を作ることができる。
これが、PMBOKがいう段階的詳細化である。

このように最初の計画段階(プロジェクト開始時点)では、当面の期間(フェーズ)の詳細な計画と、全体の大雑把な計画だけを作っておいて、作業を進めながら徐々に作業計画を詳細化していくことの繰り返しで計画に基づいてプロジェクトを進めていく方法をローリングウェーブ計画法という。


◆本質はリスクのコントロールにある

ここで考えておく必要があるのはリスクのコントロールである。段階的詳細化をしながらプロジェクトを進めていくことは、辻褄あわせの計画と比較すると、リスクのコントロールが容易になる。ただし、これはリスクを小さくするという意味ではないので注意する必要がある。あいまい性を残したままで計画を実行していくことは、大きなリスクを抱えてプロジェクトを実行することに他ならない。なぜなら、詳細化ができていない部分については何が待ち受けているか分からないし、計画の精度は低い。
その意味で、リスクは大きい。

しかし、一方で、リスクのコントロールはしっかりとすることができる。未詳細化部分のリスクを低減しながらプロジェクトを進めていくことが可能になるからだ。

一つ、例を上げて考えてみよう。ある商品開発で、一つだけ技術検証が必要な部分が残っている。その技術検証は設計後に試作品を作って行うしか方法がない。80%程度の確率で予定している通りの設計で実現できるが、20%は技術的な問題が発生しできない可能性がある。このような場合、いくつかの対処方法(計画方法)が考えられる。

(1)技術的な問題は起こらないとして、スケジュールを決める(技術的問題が発生する場合はリスクコンティンジェンシー計画として計画しておく)。プロジェクト完了予定は当初計画の段階に決まっている。

(2)技術検証までの計画を作っておき、それ以降はマイルストーン計画だけを決めておく。その上で、技術検証の結果を見ながら、その後の計画を作っていく。プロジェクト完了予定は当初計画の段階に決まっている。

(3)全体の設計に入る前に問題の部分だけを製作し、検証する(検証フェーズとして実行)。その後の計画はその結果を見て決める。プロジェクト完了時期はこの時点で決まる。

何がリスクになるかにもよるが、製品発売時期の遅延による影響がリスクであった場合、もっともリスクが大きいのは(3)である。しかもこのリスクはコントロールされていない。このようなアプローチは予定通りにいく確率が20%、行かない確率が80%であれば効果があるが、上の想定だとあまり有効な方法とはいえない。

次にリスクが大きいのは(2)である。そして、(1)がリスクがもっとも大きい。
ところが、(1)のケースはリスクのコントロールはあらかじめ決められた方法(例えば代替技術の適用)といった方法でしかできない。これに対して、(2)は(1)よりリスクが大きいが、例えば、適用技術の改良だとか、代替技術とか、選択肢が増える。つまり、リスクのコントロールして最善のゲインを得ることができる。

このようにローリングウェーブの本質はリスクのコントロールにあるといえる。


◆マネジメント計画が必要な理由

このようにローリングウェブ計画の対象は、計画データ(作業計画)である。段階的詳細化をうまく進めていくには、如何に適切なマネジメント計画を作っておくかが全てであるといってよい。ローリングウェブ計画は計画を何回かに分けて作る。その際に、プロジェクトの初期での計画の立て方と、中期での立て方に違いが生じることがある。最初はコスト優先であったが、中期になると納期優先に変わっていたというようなケースである。これは計画者の心理的な要因によるが、決して望ましいことではない。そこで、マネジメント計画を作り、マネジメント方針を明確にしておくことによって、ぶれなく、ローリングウェブを進めていくことが肝要である。

その意味で、今回説明したように、計画を3つに区別し、プロジェクトマネジメント計画を策定していくことが重要である。

さらに、マネジメント計画の中では、ローリングウェブそのもの計画も策定する必要がある。つまり、どのようなタイミングで、どのように計画を詳細化しながら、プロジェクトを進めていくかをマネジメント計画として持つのだ。

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