第28回(2005.12.12) 
プロジェクトガバナンス
 

◆経営組織からみたプロジェクト

経営組織としては、ライン組織が一般的であったが、次第にマトリクス組織が一般的になってきている。マトリクス組織は、職能別、事業別、製品別、顧客別、地域別、時間別、プロジェクト別、ビジネスプロセス別などの異なる組織構造をミックスし、指揮命令系統を多次元化した組織のことである。ミックスする意味は、それぞれの組織構造の持つメリットを享受することだ。

マトリクス組織の中でも、最も多い「職能別」、「製品別」のマトリクスを考えてみる。職能別組織は職能ごとの専門スキルの維持・向上ができるというメリットがある。これに対して、製品別事業部組織は市場適応性などのメリットがある。つまり、人を育てながら、市場へのすばやい対応をするためには、この2つをミックスすればよいという考え方である。

このマトリクス組織の具体的な組織形態としては、

1)製品企画や製造などを行う事業部門とマーケティングを行うエリアマネージャがクロスファンクショナルに業務を進めていく

2)一方にライン組織を維持しながら、製品担当としてプロダクト・マネージャを置いて各機能間の調整をさせる

3)ライン組織から数名ずつ選出してプロジェクト・チームを編成してこれを総括するプロジェクト・リーダーを置く

などの形態が取られることが多い。

このような形態の中で、特定業務のために編成され、その業務が終わったら解散してしまうようなマトリクス組織を「プロジェクト組織」と呼ぶ。


◆プロジェクト組織の問題点

ライン組織は指揮命令系統の一元化によって効率化を目指していたが、マトリクス組織(プロジェクト組織)では、メンバー(従業員)は複数のマネージャー(上司)を持つのが普通である。このため、この複数のマネージャ間で意思統一が図られず、メンバーに対する指示が矛盾したものになってしまうことが多い。このような場合、プロジェクトにおける権限の所在が極めて重要な問題になる。複数の指揮命令の間に矛盾があると、プロジェクトはたちまち、機能不全に陥るからだ。

うちは、プロジェクトマネージャーに全権限を与えているので、そのようなことはありえないと思っている人もいるかもしれない。しかし、プロジェクトマネージャーに事業業績を左右する権限を与えている組織は極めて稀である。

例えば、2)の組織を考えてみてほしい。プロジェクトリーダーは組織が承認した予算の中でプロジェクトを行う。その範囲で裁量を持つ。その範囲で、例えば、予算オーバーに対してもある程度の裁量を持つところはある。この限度は事業業績に影響を与えない範囲である。ところが、プロジェクトをストップするといった裁量をプロジェクトマネージャーに与えている組織はほとんどない。事業業績(売り上げ、利益率)に大きな影響を与えるためだ。そのような判断はライン組織のマネージャーが行うにも関わらず、その点が明確になっていないケースが多い。


◆プロジェクトガバナンスとマネジメント

さて、このようなプロジェクトにおける意思決定に関する権限を「プロジェクトガバナンス」と呼ぶ。プロジェクトが「大トラブル」に陥っているケースでは、プロジェクトガバナンスが混乱し、プロジェクトが機能不全に陥っているケースが極めて多い。

では、プロジェクトガナバンスのマネジメントはどのような形でできるのであろうか?

例えば、マネージャー間のコミュニケーションを密に行うという方策は誰もが考える。
しかし、これはとんでもない管理負荷の増大につながる。マネージャーが自分のほとんどの時間を他部門とのコミュニケーションに費やすというケースがそれだ。もちろん、マネージャーの一人であるプロジェクトマネージャーもその例外ではない。「プロジェクトマネージャーの仕事はコミュニケーションです」と平気で言われている。
メンバーとのコミュニケーションに費やす時間が多いのは当然だが、メンバー以外のステークホルダとのコミュニケーションに費やす時間が多いのはこれは仕方ない(当然だ)と考えるべきではない。

これを回避するために、一方のマネージャにより大きな責任と権限を与えたり、役割をきちんと設定したりといった方策が採られることがある。この際に注意すべきことは、どのマネージャーにどの程度の権限を与えるかはプロジェクトの進行とともに変わってくるケースがあることだ。典型的なケースがトラブルだ。繰り返し性の高いプロジェクトであれば、プロジェクトマネージャーに大きな権限を与えることが多い。
しかし、そのようなケースでも、トラブルになると、要員の投入、業績目標に照らし合わせたプロジェクト目標の見直しなど、ラインマネージャーに大きな権限を与えるべき要素が増えてくる。ここで切り替えが必要になるのだ。

このガバナンスのマネジメントはラインマネージャーやプロジェクトマネージャーが行うことは難しい。そこで、プロジェクトマネジメントオフィスがイニシャティブを取って行うことが望ましい。

このあたりの具体的な話は、プロジェクトマネジメントオフィスの機能となるので、

 pmstyle通信

の方で、新シリーズ「三位一体のプロジェクトマネジメント」というシリーズを開始し、解説をしていく予定である。興味のある方は、ご登録ください!

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