第10回(2002.11.14) 
コストの見積もりと予算の配賦
 

◆実績か分析か
 コストの見積もり手法は分野によって異なるし、一般的な議論が難しい分野である。プロジェクトマネジメントの本を見ても、見積もり手法を正面から取り上げているようなものはあまり見当たらない。
 もっとも大雑把に類型化するとすれば、実績ベースの見積もりと分析ベースの見積もりに分けることができるだろう。ここでは、PMBOKでコスト積算のツールとして取り上げられている手法を簡単に説明しよう。なお、名称については、一般的に使われているものを使うことにする。

◆実績ベースの見積もり
 実績ベースの見積りは、過去の開発実績のデータを使って見積りを行おうとするものだ。最も代表的なのは類似法という方法である。類似法は、新規開発プロジェクトに対して過去に実施した類似の開発プロジェクトを探し出し、ここから、両者の類似点、相違点を明確にし、新規プロジェクトの見積りを行う(この方法は、PMBOKでは実績スライド積算と呼ばれる)。このほかにも、複数の専門家に経験による見積りをさせ、それを集約し、再度、専門家に見せ、修正する。これを繰り返して見積りを作っていくデルファイ法といった方法などがよく使われる。
 また、全体を一括して過去の事例と比較するのではなく、アクティビティとか、ワークパッケージに分解した上で、それぞれのアクティビティに過去の類似のアクティビティを探して見積もりを行い、プロジェクトの見積もりはその積み上げで見積もるという方法が使われることもある。これはボトムアップ見積もりといった呼び方をされる(PMBOKでは積上積算と呼ばれる)。

◆分析ベースの見積もり
 分析ベースの見積りはプロジェクト成果物の分析を行い、その結果から定量的に見積りを行う方法である。分析の仕方はさまざまである。ソフトウエアで言えば、ライン数だとか、あるいは、ファンクションポイント(機能単位)といった単位で見積もられるし、建設だと面積を単位にして見積もられる。このような見積もりは、成果物の規模を分析するものだが、直接的に工数を見積もる場合もある。このような方法を総称してパラメトリック見積もりと呼ぶ(PMBOKでは係数積算と呼ばれる)。いずれにしても、すべてを論理的に出すわけではなく、最後のところは実績が入ることに注意を要する。

◆見積もりには誤差の処理
 さて、ここで大切なことは、見積もりには誤差(不確実性)があるということである。このため、見積もり値には幅が出てくる。特に、ボトムアップ見積もりやパラメトリック見積もりをする場合には、積算が入ってくるので要注意である。悲観値と楽観値を求めて、それを積算していくと現実離れした値になる可能性が大きい。したがって、このような場合には統計的総和のような方法がよく使われる。

◆統計的総和
 これは、各見積もり単位(たとえば、アクティビティ)に対して、

 期待値=(楽観値+4×最可能値+悲観値)/6

で期待値を求め、これを累積していく方法である。この場合、標準偏差が出てくる。標準偏差は

 標準偏差=[(悲観値−楽観値)/6]

で計算できるが、これがコストリスクになる。たとえば、

 WP1(設計):楽観値=100万円、悲観値=150万円、最可能値=120万円
 WP2(構築):楽観値=50万円、悲観値=100万円、最可能値=70万円

の2つのワークパッケージからなるプロジェクトがあったとすると、

 WP1:期待値=121.7、標準偏差=8.33
 WP2:期待値=71.7、標準偏差=8.33

となり、

 コスト=121.7+71.7=193.4
 コストリスク [8.33**2+8.33**2]**1/2=11.8

となる。つまり、見積もりコストが193万4円、コストリスクが11万8千円ということになる。

◆予算の配賦
 さて、コストの見積もりをして予算を作るわけであるが、もうひとつ考えなくてはならないことは、予算の配賦である。理屈の上では、計画はスコープ全体に渡って作成するので予算もすべて配賦すればよい。しかし、現実問題として、たとえば、1年のプロジェクトで、最初の3ヶ月と、最後の3ヶ月のスケジュールは精度も違えば、詳細さも違うだろう。そこで、一般的には、コストアカウントに配賦できないものは、WBSの中項目くらいのレベルに配賦し、直前になってから、WPやアクティビティに配賦するという方法を取ることが多い。
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