第21回(2004.05.20) 
キャリアアイデンティティとしてのプロジェクトマネージャー
 

◆あなたはなにもの?
 プロジェクトマネージャー養成マガジンというメールマガジンを始める背景になったことに、プロジェクトマネージャーは職業でなくてはならないという強い思いがあった。あまり、きちんと話をしたことがないが、一度、しておきたいと思う。

 著者はプロジェクトマネジメントのコンサルタントである。しかし、プロジェクトマネジメントのコンサルティングの仕事だけしているかというとそうでもない。エンジニアのキャリアカウンセリングをすることもあれば、ホームページを作っていることもある。営業活動をしていることもある。プロジェクトマネージャーをやっていることもある。しかし、何者だと聞かれれば、コンサルタントだと答えるし、独立前は、エンジニアだといっていた。

 さて同じようにプロジェクトマネージャーについて考えてみよう。プロジェクトマネージャーは多くの企業では職種ではなく、プロジェクトにおける一つのロールである。つまり、普段は部長、課長、あるいは、主任である人が、あるプロジェクトが行われる際にプロジェクトになる。これが一般的な姿である。

※ロールについてイメージが分からない方は、こちら

をご参考ください。

 これはある意味で当たり前で、会社という組織でプロジェクトをやる限り、このような立場は変えようがない。プロジェクトは時限的な組織であり、ラインが持続的な組織であるので、ライン上の立場のない社員というのは存在のしようがないからだ。

◆人格としてのプロジェクトマネージャー
 現実を見ると、プロジェクトマネージャーの適性をスキルやコンピテンシーだけの集合だと捉えることは明らかに無理がある。理由はいくつもあるが、分かりやすい理由の一つはそれだけでは「メンバーがついてこない」ことだ。プロジェクトマネージャーの適性をスキルやコンピテンシーで捉えようとすると、メンバーがついてくるかどうかは「リーダーシップのコンピテンシー」に大きく依存すると考えるのが普通だ。

 しかし、現実には、職務命令だけでプロジェクトに参加している場合、リーダーシップだけではメンバーの十分なコミットが得られないケースが多い。影響を与えようとしても、たとえば、メンバーが何らかの理由でリーダーの言葉に耳を傾けなければ、プロジェクトマネージャーとしてのメンバーとの対人関係の構築が困難になる。たとえば、メンバーから尊敬されている、慕われているといった人間的側面が必ず必要になる。

 つまり、組織の指示命令系統の中で、職務として管理を行うためにはスキルやコンピテンシーでよいが、それを超えてマネジメントをする場合には、不十分である。つまり、「マネジメントを担当する人」であるだけではなく、人格としてのプロジェクトマネージャーであることが要求されるのだ。

 このような要求にこたえるためには、ロールとしてプロジェクトマネージャーの経験の中で学習するだけでは十分ではないだろう。「プロジェクトマネジメントをやっていないとき」にも、プロジェクトマネージャーとしてものごとを観察し、考え、振舞う必要がある。

◆ジョブアンカーを考えよう
 ここで考えてほしいことは、ジョブアンカーという考え方だ(アンカーは錨という意味です)。職業と考えてもよい。上に述べたような企業に勤務する人にあなたの職業は何ですか?と聞くと、

 会社員(会社役員)

といった返事が返ってくることが多い。日本の役所がやっている職業分類が大きく影響しているのだろうが、本来、会社員というのは地位(立場)であっても職ではない。エンジニアの人は、あなたは何者だと聞かれて、エンジニアと答える人が多いだろう。事実、そういう意識の人が多い。

 この意識は極めて重要である。短期間、プロジェクトから外れ、待ちになっても、エンジニアというジョブアンカーを持っているのでエンジニアとして振る舞い、空いた時間をチャンスだと考え、この機会に新しい技術を習得するといったスキルアップに励むのだ。

 プロジェクトマネージャーはロールとして捉えても、エンジニアより一段と人間性といったスキル以外の部分が重要になるロールである。そのロールにふさわしい人材になるには、ジョブアンカーと位置づけ、常によいプロジェクトマネージャーになることを心がけていない限り、不可能である。

◆メルマガのプロジェクトマネージャーはジョブアンカー
 よく読者の方から、なぜ、プロジェクトマネージャーでない人が読者として意識するのかというご批判(?)を戴くことがある。面倒なので読者数を増やすためだと言っているが、実は、プロジェクトマネージャー養成マガジンと命名したときのプロジェクトマネージャーというのはロールではなく、ジョブアンカーなのだ。これが理由である。読者の中には、メルマガからこのことを読み取って戴いている方もいる。価値観が共有できて、大変、うれしく思う。

 もし、あなたが、本気でプロジェクトマネジメントを上手にできるようになりたいのであれば、ぜひ、プロジェクトマネージャーをジョブアンカーだと位置づけ、プロジェクトマネージャー以外の立場でプロジェクトに参加する場合にも、その意識を持ち続けて行動していただきたい。プロジェクトマネージャーとしてのオンとオフがあるという感覚だ。そのことが間違いなくあなたに成長を約束するだろう。

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読者からのコメント
プロジェクトマネジャに職としてのオンとオフの状態があるとの観点は、非常に参考となりました。日本の企業では、主任、課長、部長と言う役職にて、定義され、プロジェクトマネジャとしての専門職を意識することは少ないです。このため、プロジェクトメネジャとして、オンの状態とオフの状態が存在する。その時、オフの状態は、本人がなんであると意識するか、オンの状態でもプロジェクトマネジャとしての状態の意識度がどの程度占有しているのだろうか。一時的な仕事としてプロジェクトマネジャを意識していれば、失敗する確率も高いし、失敗から学ぶ姿勢も低いかも知れない。
 プロジェクトメネジャの状態時の職としてもプロ認識とそれに見合ったスキルを有しているか。プロジェクトの規模や難易度により、必要なプロとしてのスキルが異なる様に思われます。UMLでの状態図のようにプロジェクトマネジャの状態を記述できるのだろうか。
 オフの時、プロジェクトマネジヤのプロとしての自覚と自己研鑽とオフの時の職能\での活動との関連が興味深いです。受注活動や業績管理、また、別のエンジニア、品質管理、法務、調達などの専門家として活動も想定されます。
 企業の中で、変化が早く、グローバル化が進む中では、プロジェクト活動、プログラム活動が重要となると考えられます。その時、プロマネはオンとオフをどのようにコントロールするか人材育成、組織化など、種々の課題が見えてきて興味深いテーマです。
無名人(PMP認定者)(還暦準備・元SE)
同感です。プログラムマネジメントを考えるのはいいのですが、P2Mなどで議論していることは、戦略論、オペレーション論が中心で、組織論も技術移転などのオペレーションの観点からの議論で、本当の組織論があまり議論されておらず、人材という視点が抜けています。 好川哲人

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