第19回(2004.05.03) 
育つか、育てるか
 

 人材育成担当の人からよく「研修が実践につながらない」という相談を受ける。話を聞いていると無理もないと思うことの方が多い。

 人材を育てるには3大要素といってもよいものがある。

 (1)トレーニング
 (2)メンタリング(コーチングも一要素として含まれる)
 (3)ジョブアサイン

である。この3つが有機的に機能して始めて実践的な人材は育つ。ところがこの3つについてよく考えてみれば分かるとおり、(1)、(2)、(3)ともちょっとした規模の企業だと、担当部門が異なることが多い。

 (1)トレーニング=人材育成
 (2)メンタリング=人事
 (3)ジョブアサイン=事業部門

となる。このことのよしあしは、このメルマガではしない。5月よりリニュアルした「プロジェクト経営レビュー」で行うので、興味がある人はこちらのメルマガを購読してほしい。


 さて、なぜ、この話をしたかというと、企業の中の一個人としてキャリアを考えた場合に、キャリアについて責任を持ってくれる人はいないということを認識してほしいからだ。よく言えば、個人のキャリア支援をすることに対して組織として分業ができている。

 人事は成長機会を提供する。人材育成は成長手段を提供する。事業部門はジョブアサインによりさらなる成長機会を提供する。これが会社の人のマネジメントの基本的な仕組みである。問題はその人のキャリア全体の設計図がなければ、この3つが整合性を持って実施されることはないことだ。

 門構えの立派な会社であれば、そんなことはありえない。きちんと部門間で横通しして、キャリアマネジメントをしていると反論する人も多いだろう。では、どのように調整しているのか?個々人のキャリアについて部門間で丁寧な協議・検討をしている会社は珍しいだろう。
 結局、この「キャリアマネジメント」なるシステムは「個人というメディア」に全面的に依存している。つまり、個人が媒体になって人事の思いが人材育成に伝わり、事業マネージャーに伝わるようなシステムなのだ。もっとはっきり言えば自分のことは自分で考えろというシステムなのだ。ただし、よく言われているように、これは最近、企業側の余裕がなくなってきたから生じたことではない。少なくとも高度成長期以来、日本の会社にはこういう仕組みができている。社員が気づいていなくて、会社も気づかせなかっただけのことだ。

 結局、自分のキャリアをきちんと自分で考えるしかないのだ。会社に育ててもらおうなどと考えないほうがよい。一生懸命にプロジェクトマネジメントの勉強をし、スキルを身につけるのは個人の責任である。そんなスキルは仕事でしか使わないので、会社が金を出して身につけさせるべきだと考えている人がいるとすれば、そのような考えは改めるべきだ。その知識はどこの企業に行こうが、どこの国に行こうが使える財産になる。つまり、この部分では育っていく必要がある。

 会社に何を期待すべきか?ジョブアサインである。つまり、自分が持っているスキルを適性に活用できるジョブの機会を与えることを要求すべきである。このような要求に対して、会社は必ず、「事業の都合がある」というだろう。ここはよく考えなくてはならない。この言い分は正しい。しかし、このような言い分が出てくる原因は、個人のスキルアップの見定めの不見識になる。これがきちんとできて、言い換えると、自分のマーケティングができて始めて、プロフェッショナルだといえる。

 ここに至ってはキャリアビジョンをしっかり持つ必要がある。自分がどのようなキャリアを歩みたいかを見定め、なおかつ、自社の経営ビジョンの中でオーバーラップするところを探し、その部分でスキルを身につけていく必要がある。こんな当たり前のことができていない人が意外なほど多い。

 プロジェクトマネジメントというスキルが本当にそのオーバーラップにあるのかどうかを今一度考えてみてはどうだろうか?

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