第1回(2002.07.23) 
マネージャーと管理者
 

◆管理者とマネージャー
 プロジェクトマネジメントとプロジェクト管理はどう違うのか?双方とも,計画を作り,その計画に則り,プロジェクトを進めていく.必要があれば是正するという点ではそんなに大きな差はない.
 しかしそのニュアンスは大いに異なる.一般的には管理という言葉には静的でかつ抑制的なニュアンスがあり,マネジメントという言葉には動的でかつ開放的なニュアンスがあるが,プロジェクトにおいても計画への対処という点で同じような意味合いがある.
 つまり,管理という場合には,計画を静的(固定的)に捉え,「指示」をしたり,「強制」をしたりするための拠り所とするイメージが強い.これに対して,マネジメントの場合には計画そのものが全員で「合意」し,お互いの利害関係を「調整」された行動計画としてのニュアンスが強い.その意味で計画は動的である.そして,このようなニュアンスの結果として,管理では失敗は悪であり,もし失敗があれば徹底的に原因を追及し,再発を防止することが求められる.マネジメントの場合は失敗するのは仕方がないと考え,その場合,如何に適切に対応するかが大切だと考える.

◆管理が有用な場合とマネジメントが有用な場合
 以上からも分かるように,管理というのはある程度結果が見えているとき,つまり,ちゃんとやればちゃんとした結果が得られるという確信があるときに有用であり,マネジメントは先が全く見えず,手探りで前にすすんでいくような場合に有用である.プロジェクトにおいてはイメージ的にはマネジメントが有用だろうと思うが,現実的には管理という考え方が必要なケースも少なくない.

◆「PMキャリアデザイン」の方針
 「PMキャリアデザイン」の最初にこのような話をしたことには2つの理由がある.一つ目はプロジェクトマネージャーに必要なキャリアは管理かマネジメントかで変わるということを言いたいためである.二つ目は「PMキャリアデザイン」では管理者ではなく,マネージャーのキャリアデザインを第一義的に考えて行きたいと考えているという宣言をするためである.

ということで,今回は,キャリアパスについて考えてみたい.

 キャリアの問題を考えたいと思ったときに,まず,最初に気になったのが,キャリアの多様性である.例えばエンジニアリング系のプロジェクトとIT系のプロジェクトだと当然,プロジェクトマネージャーのキャリアの歩み方は異なるわけであるが,これを同じ土俵で議論することが可能かどうかということである.そこで,どの程度一般論として通用するかはともかくとして,当面,IT系のプロジェクトマネジメント,製品開発プロジェクトマネジメント,コンサルティングプロジェクトマネジメント,エンタープライズプロジェクトマネジメントを念頭において,一般的なキャリアの議論を試みようと思っている.これらはいずれも,上の区分では管理よりはマネジメントの方が有用性が高いと思われるプロジェクトである.

◆問題提起
 さて,もう一度,管理とマネジメントの問題に戻る.PMのキャリアを考える場合に大きな議論の一つはPMのキャリアがプロジェクト作業者の延長線上にあるかどうかという議論である.ここでプロジェクト作業といっているのはプロジェクトアクティビティのことで,ソフトウエア開発プロジェクトであればシステムの設計作業やプログラミングなどである.コンサルティングプロジェクトであれば調査や診断や分析などである.これらの作業に熟練すればマネジメントができるようになるかという問題である.例えていえば,野球の名選手が名監督になるかということでもあるし,企業で優れた営業マンや研究者がよい営業マネージャーやR&Dマネージャーになるかという問題でもある.

◆ソフトウエア開発におけるキャリアパス
 この問題をソフトウエア開発で考えてみよう.ソフトウエア開発では下流工程から経験を積むに従って上流工程を任されるようになる.最初はプログラミング.次にシステム設計ができるようになり,さらにシステム分析・要件定義を担当する.十分な経験を積んだ上でマネージャー(管理者)になっていくというキャリアパスが一般的だ.このキャリアパスの設定はプロジェクトだけではなく,一般的なラインでも見られることから分かるように,そもそもが管理を前提にしていると思われる.つまり,プロジェクト作業には決まったやり方があり,そのやり方どおりに実行されているかどうかを「管理」することを目的にしたキャリアパスの設定になっている.従って,業務に熟練しており,さまざまな側面からやり方を熟知していることが望ましい.いざとなれば,自らが作業を行い問題を片付けてしまうような腕力も必要かもしれない.その意味でも作業への熟練は重要である.

◆プロジェクト作業への熟練が大切
 ところがマネジメントを行うことを考えれば,必ずしも業務に対する熟知・熟練は必須条件にはならない.むしろ,「マネジメントに熟練」していることが重要である.計画の実施に際して,メンバー間やあるいはステークフォルダ間の調整を行い,上手に合意を作る,失敗し,問題に直面したときにその問題を解決していくといった作業への熟練が望まれる.これらの作業を行う際に,プロジェクト作業への熟練はあるに越したことはない.プロジェクト作業をいくら経験しても,管理能力の向上は期待できる.より正確な計画を作り,それに従って全体を統制する能力は高くなるだろう.しかし,いくら経験してもマネジメント作業への熟練はあまり期待できない.この点に注意をする必要がある.言い換えると,プロジェクト作業を確実に行い,かつ,後進に指導できることと,マネジメントすることは別なのである.

◆プロジェクトマネージャーのキャリアパス
このように考えると,プロジェクトマネジメントにおいてもはやり,実務とマネジメントは切り離して考え,プロジェクトマネージャーとして「見習い」から段々シニアマネージャーにキャリアアップしていくパスがあってしかるべきであろう.

このシリーズでは,以上のようにプロジェクトマネージャーのキャリアを捉え,プロジェクトマネージャーを養成していくには何をすればよいかを,組織の視点と個人の視点の両方で考えて行きたい.

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